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自由な転職

アルコール類もおきません。
単に来店客数が増え、売上がアップすればいいというならば、それらをおくことは有効かもしれませんが、Iさんはそれをしません。 「とにかくお客様に落ち着いた雰囲気のなかで、ゆったりと心ゆくまでコーヒーを昧わってもらいたいのです。
テレビやアルコール類をおくとどうしても競馬や競輪をする人たちが出入りするようになり、店の雰囲気が変わってしまいます。 それが私は嫌なのです」Iさんの柔和な表情が一瞬、きりっと引き締まりました。
その引き締まった表情こそが、第二の人生に賭ける思いの強さ、深さを物語っています。 Iさんのこだわりはこれに留まりません。
店内の雰囲気を決める重要な要素である色、落ち着いた雰囲気を出すために、店内はクリーム色とコーヒーブラウン、ピンクの三色でまとめていますが、これはデザイン関係の仕事をしている息子がイメージカラーとして選んでくれたものです。 そして、照明はそれに合わせて息子と私か共同で設計しました」いかにも誇らしげに語るIさん。
Iさんの妻は、そんな様子をカウンター内からにこやかな表情で見守っています。 「女房も飲食関係が好きで、調理師の免許も持っていて、一緒にやってくれるというものですから。

その意味では、家族全員の協力があったからこそ実現できた店ですね」家族の理解協力という点では誠に恵まれた状況で再出発を果たし、感謝の気持ちを隠さないIさんですが、同時に、店を経営していくということの難しさについても痛感しています。 「店の名前を考えたり、開店に向けていろいろと準備している間は、本当に楽しかった。
だが、開店すること自体が夢だったのではなく、お客様に愛されながら店を続けることが本当の夢ですから、自分たちの努力1カ量か問われるのはこれからです。 以前の仕事とはまったく異なり、ここではお客様を目の前にして仕事をしているわけですから、表情一つでお客様の満足度を感じることができます。
非常に怖い面もありますが、同時にやり甲斐もあります」カフェのマスターに転進したIさんは、「水商売」の難しさを自覚しつつ、「とにかくスタートしたのだから、あとは精一杯頑張るだけ」と自らに言い聞かせるように話します。 「これは絶好のチャンスだ」勤務する自動車会社が人員を削減するために希望退職者を募るという話を聞いたとき、Iさんはそう思ったといいます。
「割増金ももらえるから、それも足しにすれば、なんとか念願の喫茶店が開けるかもしれない」一度、退職する時機を逃しているIさんにとっては、もう二度とは訪れないかもしれないチャンスでした。 「どうせ辞めるなら、いい再出発が切れるよう、いい条件のときに辞めたほうがいい」当時、Iさんの会社では、五十歳を過ぎると退職時に割増金が出るという優遇制度がありました。

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